上下顎崩壊
症例(2)
治療前の状態
糖尿病で内科に通院しており、なおかつ喫煙を止めることが出来ない患者さんです。インプラントにとって、糖尿病と喫煙習慣は大敵です。レントゲンを見ても、状態の良い歯はありません。
治療経過
オールオン4が存在しなかった2007年当時に、インプラントでの治療を行いました。当初の治療プランとしては、既に欠損している左下にインプラントを施して左側で噛めるようにし、次に崩壊が進んでいる右上にインプラントを埋入、その後に上前歯という順番で噛み合わせの高さと噛む機能を維持した状態で噛み合わせの崩壊を防ぐ、という計画でした。
2000年と2003年の文献で一番成功率が高いと評価されたイノバ社のエンドポアインプラントを使用して治療を行いました。
右下の奥歯
一通り治療が終了した後、右下の奥歯が根の周囲に膿を溜めて強い痛みを起こしたため、抜歯し、インプラントをしました。この時は、国産のGCインプラントを使用しました。
右上犬歯
犬歯ということで大きな負荷がかかった為か、インプラント周囲の感染か、糖尿病のせいか、喫煙の影響か、右上犬歯分のインプラントが脱落したため、インプラントで最も古い歴史を持つブローネマルクインプラントを埋入しました。
手術の詳細
上顎前歯部を再インプラント
治療は終了し経過観察の時点で、上の前歯部のインプラントを繋げたブリッジが動揺しており、インプラントが抜けてきました。
インプラントを撤去した穴からは膿が出てきました。撤去したインプラント表面には骨はついておらず、プラークがべったり付着していました。
撤去したインプラントの隣にあるブローネマルクインプラントは、既に周囲の骨が溶けて無くなっており、ネジが露出していたため、その部分をしっかりと清掃し、骨補填材を入れました。また、抜けたインプラント部分には、2本のブローネマルクインプラントを埋入し、縫合したのち、仮歯を固定しました。
9ヶ月後
9ヶ月後に上顎の前歯に人工歯を装着しました。
治療後の経過
左下のインプラント撤去 →ブリッジ
治療後1年経過し、定期検診時に撮影したレントゲンで、左下のインプラントに骨吸収を発見したので撤去しました。その後、残りのインプラントをブリッジでつなげました。
歯根破折と根面う蝕で左上の歯を抜歯し、インプラント
1年後
右下クラウンが、虫歯により脱離し、保存不可能だったので抜歯しました。また、右上インプラントの動揺が出てきていたのでインプラントを撤去し、右上に3本、右下に2本のバイオホライズンズインプラントを埋入しました。
左上奥のクラウンが2本脱離
左上奥歯のクラウンが2本脱離してきたため、抜歯しインプラントをしました。
右下奥歯のインプラントが術後1ヶ月で自然排出
稀なケースですが、右下第二大臼歯部に埋入したインプラントが術後1ヶ月で自然に抜けてきました。インプラントの表面には骨がくっついており、糖尿病の影響だと考えられます。写真は自然排出されたインプラントの表と裏ですがほとんどのインプラント表面に骨が付着しているのがわかります。
この部分に再度インプラント埋入を試みましたが、術後のレントゲン写真とCTで確認すると、インプラントは埋めた位置より下に下がっており、下顎管に接触しているので撤去しました。おまけに右上に埋入した3本のインプラントは位置移動が起こり、排出されてきていました。
3ヶ月経過後
左下一番奥のインプラントの周囲骨が吸収して無くなっています。右上のインプラントはさらに位置移動が起こっています。
インプラント周囲炎が進行した左下奥歯のインプラントと、右上奥歯のインプラントを撤去しました。
右上のインプラントに対し2次手術を行いましたが、前方のインプラントは骨と結合しなかったため、インプラントを撤去しました。
また下前歯の虫歯が進行し保存不可能となった為、抜歯して上も下もインプラントのみで全ての咬合を再建するボーンアンカードブリッジにすることにしました。
下顎にインプラント埋入→連結
下顎のインプラントも連結しました。
長期間経過観察
インプラントの自然脱落が相次いだので、長期間経過観察をし、最終的な人工歯を装着しました。
下顎にインプラント埋入→連結
治療期間 | 10年 |
費用 | 上顎 462万円 (税込) 下顎 330万円 (税込) |
- リスク・副作用
- 術後の出血、数日間の腫れ、疼痛、内出血によるアザが出る可能性
- 外科的治療によるリスク
- 十分なメンテナンスを行わなければ失敗やトラブルを招く可能性
このケースでは、次々に問題が起こりましたが、原因としては、喫煙習慣や糖尿病の影響が考えられます。喫煙習慣や糖尿病がある場合、インプラントを支える歯周組織に悪影響を与えます。また、免疫が低下し、骨を作る細胞の活動が低下するなど、あらゆる面でインプラントが安定しないリスクが高くなります。結果的に何度も治療介入が必要となり、治療費もトータルでは膨大な金額になってしまいます。